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スキルだけでは話にならない!?
AI時代のエンジニアに必要な職務遂行能力とは

2025年に入り、AIツールが急速に発展し「エンジニアは、AIによって本当に仕事が奪われてしまうのでは?」と不安になっている方も多いと思います。結論から言うと、エンジニアはAIに仕事を奪われません
ただし、職務遂行能力が低いエンジニアは例えスキルがあったとしても職務遂行能力が高いエンジニアに仕事を奪われていきます

第一回では、「技術力」「職務遂行能力」「スキル」の差をはっきりとさせ、その上でなぜ「スキル」だけでは通用しなくなっていくのか、そしてAI時代を生き残るための「職務遂行能力」について考察していきます。

01. 技術力、スキル、職務遂行能力とは?

技術力やスキルと言う言葉に厳密な定義はなく、人によって解釈が異なります。この記事では、それぞれ下記のような定義にします。

  • 技術力: 物事を成し遂げるために必要な能力専門分野におけるスキルの2つで構成される
  • スキル: 専門分野におけるスキル。たとえばプログラミング、データ分析、マーケティングの専門知識
  • 職務遂行能力: 物事を成し遂げるために必要な能力。与えられた業務を最後までやり遂げるために必要な能力のこと

つまり、下記のような関係になります。

技術力=スキル+職務遂行能力

スキルは専門知識を表し、「React」や「TypeScript」などが該当します。職務遂行能力とは、スキルを使って物事を成し遂げるために必要な能力であり、一般的には「問題解決能力」、「コミュニケーション能力」、「思考能力」、「コスト意識」などが挙げられます。
上の定義から、よく言われる「あの人は技術力がある」という表現は「あの人はスキルや専門知識を使って物事を成し遂げる力がある」と言い換えることができます。

02. スキルだけでは話にならない!?

スキル仕事を奪うAI

対話型の生成AIによって、専門知識(=スキル)へのアクセスとなりました。やりたいことを生成AIに伝えて対話を繰り返せば、AIが専門知識を教えてくれるためあとはそれらを組み合わせてプログラムを書いていけば、誰だってプログラムを作れてしまうようになりました。
しかし、直ちにすべてのエンジニアの仕事がなくなってしまうのかというと、そうではありません。現にエンジニアの方は今でも雇用され、今までとあまり変わらない日常を過ごしていると思います。それはなぜでしょうか?

職務遂行自体は人間が行う

AIがスキルを補ってくれるようになっても、そのスキルを使って物事を成し遂げるためには人間の職務遂行能力が必要になります。専門知識を使って実際にシステムを組み上げたり、人と会話して仕様を作ったり、プロジェクトの進捗を管理したり、コードの品質を保つためのテストを作ったりといった行動は人間が行わなければなりません。

スキルだけでも許されていた時代の終わり

実は、スキルだけでは通用しないという見解はAIが進化する前から存在していました。どんなにスキルのあるエンジニアでもコミュニケーション能力が決定的に欠けていたらチームの一員としては機能しないし、スキルがあってもコスト意識がなければプロジェクトにとって重要でない作業にのめり込み時間を浪費することになるでしょう。このような問題は昔から存在していましたが、IT系人材という需要が高すぎたため目を瞑られて来たのでしょう。

しかし、AIが進化した今では、専門知識を持ったAIがコードを生成してくれるため、専門知識に頼っているエンジニアの社会的な価値は低下して行くでしょう。エンジニアの方々は考えてみてください。AIの進化によって専門知識へのアクセスが極限まで簡単になったとき、プログラムの品質は誰が書いてもあまり変わらないものとなります。その時、あなたが事業主だった場合に、コミュニケーション能力やコスト意識が低く扱いづらい人間と、コミュニケーション能力もコスト意識も備えた扱いやすい人間、どちらを雇用しますか?

03.職務遂行能力の実態

職務遂行能力には、どのようなものがあるのでしょうか。「問題解決能力」、「コミュニケーション能力」、「思考能力」、「コスト意識」などが出てきましたが、これらは具体的にどのような能力なのでしょうか?
調べてみると、実は「コミュニケーション能力」などといった言葉は一般的な言葉であり、具体的な職務遂行能力を指しているようではないようでした。確かに、一言で「コミュニケーション能力」と言われても具体的に何を指しているのかよくわかりません。厚生労働省や海外の研究を参考に調べてみたいと思います。

厚生労働省の例

厚生労働省では、事務職種の職業能力評価シートを公開しています。その中でも「情報システム」がエンジニアに当たる職業のようなので、こちらを参考にしてみます。情報システム系の職業は4つのレベルに分かれており、それぞれの役職でチームワーク周囲との関係構築に求められる行動の水準があるようです。

【チームワークの発揮】

レベル役職職務遂行のための基準
1エントリー/スタッフ周囲から質問や助力を求められた場合には快い態度で対応している
2シニア・スタッフ効率的に業務を進めるために必要な環境を構築し、周囲と役立つ情報を共有している
3スペシャリスト/マネージャー全社最適の視点から、必要な社内関係先との調整や説明をスピーディに行い、社内コンセンサスの構築を推進している
4シニア・スペシャリスト/シニア・マネージャー全社最適の視点から、必要な社内関係先との調整や説明をスピーディに行い、社内コンセンサスの構築を推進している

【周囲との関係構築】

レベル役職職務遂行のための基準
1エントリー/スタッフ周囲との積極的にコミュニケーションをとり、友好的な人間関係を構築している
2シニア・スタッフ社内関係者と日頃から友好的なな人間関係を構築している。また社外のイベント等に積極的に参加し、人的ネットワークの拡大に努めている
3スペシャリスト/マネージャー社内外に幅広い人的ネットワークや情報収集ルートを構築し、信頼関係を構築している。また、下位者に対してノウハウを提供するなど、組織全体としての情報収集力や人的ネットワーク構築力の向上を図っている
4シニア・スペシャリスト/シニア・マネージャー社内外に幅広い人的ネットワークや情報収集ルートを構築し、信頼関係を構築している。また、下位者に対してノウハウを提供するなど、組織全体としての情報収集力や人的ネットワーク構築力の向上を図っている

おそらく、一般的に言われる「コミュニケーション能力」のような表現は、上述した「チームワークの発揮」や「周囲との関係構築」などの職務遂行のための基準を一言で表したときに使われる言葉です。端的に表現することで「職務遂行能力は段階的な発達をしていくもの」だという概念が抜け落ちて具体性に欠ける表現になってしまっていたのでしょう。
これらのことを踏まえると、職務遂行能力には下記のような特徴があるようです。

  • 職務遂行能力は職種や役職によって求められる内容が異なる
  • 職務遂行能力は段階的に発達する

別の角度からも、職務遂行能力に上記の特徴が見られるかを調べてみましょう。

海外の研究の例

職務遂行能力について、海外では「コンピテンシー」という言葉が近い概念になります。聞いたことがある人もいるとは思うのですが、定義を確認してみましょう。

コンピテンシーとは、高い成果を上げる人材に共通する行動特性や能力のことです。心理学用語として1950年代に生まれ、人事評価や採用面接、人材育成などに活用されています。

出典: Gemini

このコンピテンシーについては海外で研究されており、およそ650の職種から行動特性を抽出し、それをコンピテンシーとして定義しています。コンピテンシーとは高業績者の特徴で、つまりたくさんの人間にインタビューをして高業績の人間の行動の特徴を抽出し、カテゴリー分けして発達段階の順番に行動の特徴を並べる研究が行われていたということです。

その研究の一部から「コミュニケーション能力」に近そうなものを抜粋してみました。

【影響力 > 関係の構築】

レベル行動の特徴
1招待を受け入れる。他者からの招待や友好的な働きかけを受け入れるが、自分からは招待をしたり、積極的に仕事上の関係を築こうとはしない。
2仕事関連の連絡を取る。仕事に関連する事項に焦点を当てた正式な仕事上の関係を維持する。ただし、口調やスタイル、形式が必ずしも厳密にフォーマルである必要はない。仕事に関する雑談なども含まれる。
3時折、非公式な接触を図る。職場で時折、非公式またはカジュアルな関係を自ら始め、子どもやスポーツ、ニュースなどの話題について雑談する。
4親密さを築く。同僚や顧客と、職場で頻繁に非公式またはカジュアルなやり取りを始める。ラポール(信頼関係)を築くために意識的に努力する。
5時折、社交的な接触を持つ。クラブやレストランなど、職場の外で同僚や顧客との友好的な関係を時折自ら始めたり、深めたりする。

【マネジメント・コンピテンシー > チームワークと協調】

レベル行動の特徴
1協力する。進んで参加し、チームの決定を支持し、「良いチームプレーヤー」として自分の役割を果たす。
2情報を共有する。グループの進捗やプロセスについて常に人々を情報通にし、関連・有用な情報をすべて共有する。
3ポジティブな期待を示す。他者に対して前向きな期待を表明する。チームメンバーについて前向きな言葉で話す。理性に訴えることで他者の知性を尊重していることを示す。
4インプットを求める。他者の意見や専門知識を真に重んじ、(特に部下から)学ぶ意思がある。具体的な決定や計画を立てる際に、アイデアや意見を求める。プロセスにグループの全メンバーが参加できるよう促す。
5他者を力づける。良い成果を上げた人を公に称え、奨励・支援することで他者を力づける。相手が強さや重要性を感じられるようにする。

どちらも明確に行動の基準が記されており、私達のイメージする「コミュニケーション能力」に近い内容が記されていることがわかると思います。「コミュニケーション能力を身に着けろ!」と言われても具体性がなくて何をしたらよいかわかりませんが「他者との親密な関係(信頼関係)を築くために、気の合う顧客とか同僚とかと率先して日常会話をしたり、飲み会とか行って親睦を深めてください」とか「他のメンバーの良いところを引き出すことを心がけて、前向きな言葉で他のメンバーと話すようにしてください」と表現されれば具体的に何をしたらよいか分かりやすいですね。

04.まとめ

AIが進化したことによりすべてのエンジニアのスキル(=専門知識)の底上げが起きたことで、業界全体が職場が求めるスキルの水準を満たしやすくなりました。その結果、スキルを使って物事を成し遂げる力である「職務遂行能力」が相対的に重要になってきました。
職場が求める技術水準が満たしやすくなった昨今で「職務遂行能力が低いエンジニア」と「職務遂行能力が高いエンジニア」を比べた場合、どちらも技術水準を満たすのであればコミュニケーションが取りやすかったり締切に対して意識をしてくれるような人材が選ばれるようになることでしょう。

職務遂行能力には、今回紹介したコミュニケーション能力に相当する「チームワーク」や「関係構築」の他にも、様々なものがあります。次回は、職務遂行能力の中でもエンジニアにとって特に重要な能力について紹介していきます。

次の記事: 新卒で知っておきたかった!エンジニアに必要な職務遂行能力3選

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